「夜のななふし-03(1)」楢﨑古都
夜のななふし-03(1)|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/89H95OZO04
— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月31日
ハルキは律儀に幼稚園へ通う。今朝も、昨日遅くまで起きていたくせに自分から起き出して私を揺すり起こした。暖房をかけっぱなしで寝た室内は充分過ぎるほど温もり、喉をひどく渇かせた。
二度寝しようとする私を再度揺すり起こし、起き上がったのを確認してからハルキは着がえはじめる。たんすにしまわれず床に散乱している服の中から、下着やら靴下やらを適当に選び出して身につける。私は壁にかかったしわくちゃのセーラー服に袖を通した。高校へ行くためではない。ハルキを幼稚園へ送っていくために、私は毎朝このセーラー服を着る。制服を着ていたほうが、朝の喧騒には紛れ込みやすいのだ。不機嫌な顔を見せれば、あえて話しかけてくるやつらもいなくなる。
髪をとかして、ハルキに通園かばんを背負わせると、時計の針は七時を十分ほど過ぎたところだった。床に脱ぎっぱなしにしていたコートを拾い上げ、二着分を腕に持つ。安っぽくて、だからわざといつも着ている量販店のコートは暖かい。
廊下に出ると、空気の冷たさが暖房でほてった身体に寒さを思い出させた。リビングにはまだ酒のにおいが充満していた。水が飲みたくて、台所の蛇口をひねる。水の冷たさは乾燥しほてった両手にも同じ感覚を蘇らせた。
カウンターキッチンから見える親父は、いつの間に移動したのかソファの上でだらしなく眠りこけている。相変わらず耳障りないびきは絶えない。その様を見ていたら、再び無性にこの男を蹴り飛ばしたい衝動に駆られた。けれども、強情に私のプリーツスカートを引っ張る細腕が、私からその機会を奪った。コートを羽織り、私たちは玄関の鍵を閉めずに家を出る。
朝ご飯を買いにコンビニへ寄り、公園で包みを開いた。ハムタマゴサンドと、かにパンと、二百ミリリットルパックの牛乳を二本。相当喉が渇いていたのか、ハルキは喉を鳴らして牛乳を一気に飲み干した。続いてかにパンに手をのばし、頬を膨らませ口の中をいっぱいにする。飲み込む音が聞こえてきそうだ。私はタマゴサンドから口につけ、口休めにストローで牛乳を吸う。冷たい牛乳は思いのほか早く身体を冷やしていく。
ハルキをベンチに残して、公園脇の自販機へ立った。飲み物の中からコーンスープを選んで二回ボタンを押す。ついでに隣の自販機からピースという名の煙草も落とす。
コーンスープはコートのポケットにしまって、百円ライターを取り出した。火は乾燥した空気によって威勢のよい音を立て、買ったばかりの煙草の先端を瞬時に燃やした。ベンチへ戻るまでに三口吸って、腰かけると同時に長いため息をつく。ハルキの顔の前で長い煙を吐いた。煙にむせかえる姿を見て、私はとても満足する。ハルキは決して文句を言わない。私がベンチに戻ってくるまでの間、こいつはずっと視線を私から逸らさずにいたのだろう。