夜のななふし-04(3)楢﨑古都
楢﨑古都
夜のななふし-04(3)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/aK3U58wYLR
— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月5日
「ハルキ、何持ってるの。」
店員からも私からも視線をそらして、ハルキは後ろを向く。
「見せて。」
しがみつこうとするのを引きはがし、袋を持つ手を持ち上げた。抱きかかえられて見事につぶれてしまったかにパンが、ハルキの顔の前で揺れた。
「お金を払わずに、勝手に持って来たの。」
コンビニから出て来た客が、私たちを見て見ないふりして通り過ぎて行く。ハルキは黙りこくってしまって、何も答えようとしない。それどころかさらにきつく袋を握りしめる始末だ。
「欲しいときにはお金を払わないといけないんだってことぐらい、ちゃんと分かってるはずでしょう。」
ハルキはぎこちなく頷く。
「分かっているんなら、それを今すぐお店の人に返して。そして謝って。」
動こうとしないハルキに向かってさらに語勢を強めて言うと、ようやく握りしめていたパンの袋から指の力を抜いた。右手で私は袋を受け取り、左手でハルキの背中を押す。
「謝りなさい。」
「ごめん、なさい。」
しゃっくりと鼻声が混ざった、か細い声だった。大声で泣き出すかと思ったが、ハルキは声を上げなかった。
「後でもう一度ちゃんと言って聞かせますので、許してやってもらえませんか。」
パンを返して、頭を下げた。
「本当にすみません。」
「やっちゃいけないことなんだってことは、ちゃんと分かってるみたいだから、今回だけは許してあげるけど、でも二度とこういうことはないようにね。癖になっちゃ、元も子もないよ。ぼくも分かったかい。」
かがみこんだ店員に後ずさりしながらも、ハルキは頷いていた。つぶれてしまったかにパンを店内で買い取り、もう一度頭を下げて店を後にした。
後ろをついてくる気配だけは見失わぬようにしながら、私たちはしばらく離れて歩いた。あたりはすっかり暗くなっていた。小さなコンビニ袋に入れられたかにパンは、ほとんど重さがなかった。