かなしくなったら、魚の気持ち

生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて かなうなら素数のひとつに仲間入りしたくて ひとだからさきおとといのことを後悔します おやすみはにー♭ 【Yoga Alliance US Teacher Training 200 修了(First class)】

夜のななふし-04(3)楢﨑古都

楢﨑古都

 

「ハルキ、何持ってるの。」
 店員からも私からも視線をそらして、ハルキは後ろを向く。
「見せて。」
 しがみつこうとするのを引きはがし、袋を持つ手を持ち上げた。抱きかかえられて見事につぶれてしまったかにパンが、ハルキの顔の前で揺れた。
「お金を払わずに、勝手に持って来たの。」
 コンビニから出て来た客が、私たちを見て見ないふりして通り過ぎて行く。ハルキは黙りこくってしまって、何も答えようとしない。それどころかさらにきつく袋を握りしめる始末だ。
「欲しいときにはお金を払わないといけないんだってことぐらい、ちゃんと分かってるはずでしょう。」
 ハルキはぎこちなく頷く。
「分かっているんなら、それを今すぐお店の人に返して。そして謝って。」
 動こうとしないハルキに向かってさらに語勢を強めて言うと、ようやく握りしめていたパンの袋から指の力を抜いた。右手で私は袋を受け取り、左手でハルキの背中を押す。
「謝りなさい。」
「ごめん、なさい。」
 しゃっくりと鼻声が混ざった、か細い声だった。大声で泣き出すかと思ったが、ハルキは声を上げなかった。
「後でもう一度ちゃんと言って聞かせますので、許してやってもらえませんか。」
 パンを返して、頭を下げた。
「本当にすみません。」
「やっちゃいけないことなんだってことは、ちゃんと分かってるみたいだから、今回だけは許してあげるけど、でも二度とこういうことはないようにね。癖になっちゃ、元も子もないよ。ぼくも分かったかい。」
 かがみこんだ店員に後ずさりしながらも、ハルキは頷いていた。つぶれてしまったかにパンを店内で買い取り、もう一度頭を下げて店を後にした。
 後ろをついてくる気配だけは見失わぬようにしながら、私たちはしばらく離れて歩いた。あたりはすっかり暗くなっていた。小さなコンビニ袋に入れられたかにパンは、ほとんど重さがなかった。

 

お題「思い出の味」

 

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