かなしくなったら、魚の気持ち

生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて かなうなら素数のひとつに仲間入りしたくて ひとだからさきおとといのことを後悔します おやすみはにー♭ 【Yoga Alliance US Teacher Training 200 修了(First class)】

セラムンも夢も魔法も冒険も少女漫画はなかよしだった

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うたの日 短歌 2020-0026

 

  セラムンも夢も魔法も冒険も少女漫画はなかよしだった
  低気圧襲いかかればやまいだれまみれの朝だ、おふとんの国
  好きだったときのあなたはイケメンで冷めればただのダメンズだった

 

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道ゆきは未だ定まらないけれど たんぽぽの花 綿毛となりぬ

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うたの日 短歌 2020-0027

  いくつもの小さな森が弁当の隅を彩っているブロッコリー
  車窓から臨む生活いくつものお隣さんでつながつている
  道ゆきは未だ定まらないけれど たんぽぽの花 綿毛となりぬ
 

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「好きです」としたためられた便箋に香る花びらあなたの気配

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うたの日 短歌 2020-0026

 

  ふり向けば「睫毛ついてる」伸びた手が頬に触れそう、それは禁じ手
  この嘘は期待半分孕んでて「好きなひとなら目の前にいる」
 「好きです」としたためられた便箋に香る花びらあなたの気配

 

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🌹 不確かな明日のことは後にして湯船に浮かぶアヒルみたいに(楢﨑古都)

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うたの日 短歌 2020-0025

 

 ✿不確かな明日のことは後にして湯船に浮かぶアヒルみたいに
  身が先か穴が先かを問いぬればオールドファッション哲学となる
  謎めいていた方がほら魅力だしアカウントなら8つ持ってる

 

お題「気分転換」

 

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くじらの歌う唄-05(5・終)楢﨑古都

 財布だけ持って、テレビを消し忘れた部屋を後にする。マンション中にわたしたちの声を響かせてやりたくて、迷惑もはばからずおしゃべりし続けた。すきっ腹を抱えて笑うと、よけいにお腹が減り、それがまた可笑しくて仕方がなかった。
 手をつないで、閑散としたホテル街を走り抜けた。帰宅途中のホストを追い越し、そのくたびれたスーツと痛んだ茶髪を見て笑った。片方の足がほつれると、もう片方の足ももつれて、二人同時に前のめりになり、転びそうになった。
「祥子ちゃん、近道しよか」
 遮断機の上がった踏み切りを前にして、京子が立ち止まった。もう少し先まで行けば、地下道を抜けていくこともできる。立ち止まったのは、わたしの意思でもあった。
「はじめのいーっぽ。だるまさんがころんだ」
 甲高い、舌足らずな声が響く。線路沿いに、園庭のないビルの二階を借りた個人経営の認可保育園があった。わたしは思わず息をのむ。ここへ戻ってくるのは、はたして何か月ぶりだろう。白いシーツが、遮断機の先に見える気がした。
 子どもたちのはしゃぎ声は、ここで人身事故があったことなんて微塵も思い寄らせない。わたしは京子の手をにぎり返した。
「だるまさんがころんだ」
 踏み切りは、助走をつけてちょうど大股十一歩分だった。渡り終えたところで、母親に手をひかれた園児と目があう。わたしたちの遊びにいますぐにでも加わりたいと言わんばかりに、半ズボンの足が地面を蹴り、飛び跳ねている。水色のスモッグに黄色い帽子。再びわたしたちが駆けだすと、肩から斜めにかけた通園カバンが大きく手をふり、見送ってくれた。
 鳴りだした踏み切りのサイレンに、京子の歓声が乗った。背後に遠ざかっていく過去が、引き続きのいまとこれからにつながっていく。かたく手をつなぎ、わたしたちは喉の鎖が切れるまで全速力で走り続けた。
 瞬きの合間に、クジラが潮を吹く。
 お腹の底から笑い声を沸かせて、わたしたちはまっしぐらに海を目指した。

2005年11月 3日
原稿用紙:55枚
「江古田文人会・第九号」掲載
「第23回日大文芸賞・優秀賞」受賞作

お題「#おうち時間

 

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「くじらの歌う唄/メルヒェン」

「くじらの歌う唄/メルヒェン」

 

くじらの歌う唄-05(4)楢﨑古都

 

 

「祥子ちゃんの指、気持ちええなあ」
 お風呂から上がると、わたしは京子の髪の毛にドライヤーをあててやった。温風の向こう、細いウェーブがなびいて、赤身の増したくちびるが垣間見えた。それが、忘れものみたいなあくびをひとつする。小首を傾げたうなじに沿って、わたしは鼻先をすり寄せた。
「どないしたん、祥子ちゃん」
 せっけんの香りのする京子の首筋にわたしはくちづけて、答えを曖昧にする。
 ふと、湯舟に浸かっているあいだもつけっぱなしにしていたテレビ画面へ視線が吸い寄せられた。
「クジラがいる」
「え?」
 カメラが暗い藍色の波間に、白いまだらの目立つ黒い山を上空から捉えていた。
「ほんま、迷子クジラやわー」
 ――湾内に姿を現したコククジラの体調は七、八メートルあり、回遊途中に迷い込んだものと見られます。約五分置きに海面へ浮上しては、尾を跳ね上げたり潮を吹くなどして、近くの岸壁から見物している人々の歓声を集めています。
 読み上げた女性アナウンサーが、横にいる男性アナウンサーに、もう名前もついているみたいですよ、と笑顔で話しかけている。
「見にいこうか」
 京子の腰に腕をまわし入れ、背後から抱きつく。ドライヤーの温風でほのかにぬくもった髪が、肩に乗せた頬をくすぐり、その場所を居心地よくさせる。
「本気? 祥子ちゃん」
 わたしは顔を上げて、間近でうなづいてみせる。単純に出かける口実が欲しかったのかもしれない。京子と一緒に、海へ行きたくなっていた。
「あーでも祥子ちゃん、その前にね、朝ごはん食べへん? 実はくうちゃん、さっきからめちゃめちゃお腹鳴りまくってて。いまなら何か、食べられそうな気がするんよ」
 照れ笑いを隠して上目づかいになった京子のお腹が、早く、と催促するのがそばから聞こえた。
「笑わんといてーや、もうー」
「何が食べたい?」
「つくってくれるん」
「冷蔵庫の中、缶ビ以外に何か入ってたっけ」
「うーん、なんもあらへんな」
 わたしたちは急いで服を着替え、出かける支度をした。あわただしく洗面所と化粧台の前を往復して、今日一日の計画を立てた。
 パン屋さんのサンドイッチとか食べてみいひん? ふんぱつして、デパ地下のお総菜コーナーいって選ぼうか。サーモンとか、オリーブとかはさんであるやつ。フレッシュジュースも飲みたいなあ。朝ごはんは電車のボックス席で食べてさ、お昼ご飯は海のそばで食べよう。こんなん久しぶりやわ。なんかわくわくする。ピクニックみたいやね。
 いつもはミニスカートかワンピースの京子が、ジーパンにトレーナーを着て、髪をひとつに結い上げていた。後れ毛が、うなじのそばで自由にしていた。

 

お題「#おうち時間

 

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「くじらの歌う唄/メルヒェン」

「くじらの歌う唄/メルヒェン」

 

くじらの歌う唄-05(3)楢﨑古都

 

「クジラの唄、聞きながら思ったんよ。ああきっと、クジラは海の底で恋をしたかったのやわって。くうちゃん、クジラと一緒に泳いどったんよ」
 遊び疲れた波が、湯舟を行ったり来たりしていた。
「その前後の夢は、全然思いだされんのやけどな」
 わたしは呆気にとられて、垂れてくる水が目に入るのもいとわなかった。
 夜の底で聴いたザトウクジラの歌う唄は、メスを誘うラブソングだった。何キロも何十キロメートルも離れた先へ、いるかどうかもわからないその人を、くじらは探し求めていた。
 彼らの出会いは偶然だろうか、歌声にみちびかれて交尾をし、子孫を残してサークルの一部に加わること。自然の摂理に従った、必然的な本能の結果であることには違いなかった。何より、わたしたちはそうして受け継がれてきた。感情など存在しなくても、わたしたちはつづいてきたのだった。
 けれども、クジラが海へ帰っていった理由、それはほんとうに京子の言うとおり、たったそれだけのことだったのかもしれない。
「祥子ちゃん」
「うん」
 今度は、わたしが悲鳴をあげる番だった。さっき、わたしが仕掛けたのとおなじところを京子はくすぐってきて、そこからまた際限のないじゃれあいをはじめる。
 くじらになりたがった京子も、待ちつづけたわたしも、実ははじめから答えを知っていたのかもしれない。玉手箱の中身を期待していたのも、白馬に乗った王子様がいつの日か迎えにきてくれると信じていたのも、要するにおなじことだった。玉手箱には鍵穴もなければ、ふたと底の切れ目もなかった。竜宮という夢うつつの答えはたまゆらでしかなかった。ありえない一瞬にいくら焦がれても、得られるものなんて何ひとつなかったのだ。開かなければ、男も老いることはなかったのだから。
 それでもひとは、ひょんな偶然から煙を浴びてしまうのかもしれない。現実は、昔話で語られなかった続きの物語だ。わたしたちは主人公にはなれないし、背景もつくりものなんかじゃない。赤ん坊はよみがえらないし、時間は戻すことができない。だから人間はどうしようもなくなって、死について考えてしまったりするのかもしれない。

 

お題「#おうち時間

 

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「くじらの歌う唄/メルヒェン」

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