「水に咲く花-08(1)」楢﨑古都
水に咲く花-08(1)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/VsySd1096J
— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月22日
シャワーを浴びて、かあさんに浴衣を着つけてもらった。祖母がわたしのために縫っておいてくれた浴衣だ。クリームが買った白地に笹の葉が舞っている。濃緑の帯を締めた。昔のように、かあさんはわたしの髪をまとめ上げ、かんざしを差してくれた。
「母さんも、後から行こうかしら」
「一緒にいく人いるの」
「失礼ね」
冗談を言いあいながらも、すでにわたしの胸は早鳴っていた。両腕に力が入らず、脱力感さえ覚える。篠崎くんに会うことが、ひどく憂鬱に感じられた。鏡の中の自分が、まるで別人のように思えた。
「駅まで、車で送って行ってあげようか」
「ううん、いい。浴衣で歩きたい」
「そう、それならいいけど」
駅までは歩いて十五分ほどだ。今日は風もあるし、夕方だから炎天下というわけでもない。篠崎くんに会うための、心の準備をしておきたかった。
駅に近づくにつれ、浴衣姿の人々が増えていった。今日で縁日がおしまいだからだろう。自分もそのうちの一人だった、と遅れて気がつく。アスファルトを蹴る、乾いた下駄の音が小気味よかった。たまに、深呼吸して一歩ずつゆっくり歩いた。
待ち合わせの五分前、篠崎くんはまだやって来ていなかった。そっと、遅れないで、と思う。待つ余裕すら、なくなっていた。時間通りに姿を現した篠崎くんを見つけて、わたしは安堵からかうまく笑って見せることができた。
「行こうか」
「うん」
陽はかげりはじめていて、アーケードで覆われた商店街は電灯と提灯の明かりで満ち満ちていた。甘い匂いや、鉄板で熱せられたソースの匂いが、空かせてきたお腹と鼻先をそそった。
「あ、俺、広島焼き食べたい」
出来立ての白い湯気が鉄板から立ちのぼっている。一パック四〇〇円。いままさに透明なプラスチックのパックに移され、蓋をされる。すると湯気が一気に内側を曇らせた。
「いち子ちゃんも食べるでしょ」
篠崎くんは割り箸を二本もらい、手提げ用の小さなビニール袋に入れられた広島焼きを受け取った。
「わたし、あんず飴食べたいな」
露店を見つけて指差した。さっきまでの、摑みどころのない憂鬱は周囲の賑やかさにいくらか和らいでいた。
あんず飴は、露店主と一回一〇〇円でじゃんけんをして、勝ったらふたつ、負けかあいこだとひとつもらえる仕組みになっていた。
「わあ、買っちゃった。篠崎くん、どれがいい? あんずと桃とみかんがあるよ」
「じゃあ、みかん」
アイスのコーンにそれぞれの缶詰果物が詰められて、上からたっぷりの水飴が流し込まれる。水飴が垂れてしまわないように少しずつかじりながら、ひとまず座れるところを探した。