かなしくなったら、魚の気持ち

生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて かなうなら素数のひとつに仲間入りしたくて ひとだからさきおとといのことを後悔します おやすみはにー♭ 【Yoga Alliance US Teacher Training 200 修了(First class)】

02 ◇ 日常的な教室の俯瞰 ◇(この素晴らしい世界)楢﨑古都

 

 僕はその光景の一部始終を、天井付近にうらうらと漂いながら見下ろしていた。
『お前、相当性格悪いな。自分いじめてたやつがいじめられるとこ見て、面白いのかよ』
『ふん、いい気味じゃないか』
 僕の体は蛍光灯の無機質な明かりを透きとおしている。隣で一緒に浮いている、小学生くらいの背格好しかないがきんちょも同じだ。僕らは、生きている人間の目には映らない。
『お前をいじめてたのは、こいつら全員だろ。なんで、あいつだけ名指ししたんだよ』
 がきんちょは、めずらしく僕個人に興味を示した。こいつは、基本的に人間世界のことなんか気にかけないのだ。ぐうたら野郎め。ちらと僕の方へ視線を投げたかと思うと、次の瞬間には日差しの中で大あくびをしている。
『あいつ、僕に言ったんだ。お前なんか、いてもいなくても同じなんだよって』
 僕はいささか、突っ掛かり気味に答えた。
『くだらねぇ。まさか、本気でそれだけの理由かよ』
 くだらなくとも、それだけの理由だ。
 僕は数週間前の月曜日、青い便箋に自分がいじめぬかれてきた日々の苦悩を書き綴り、学校の屋上から飛び降りた。便箋にはユウの名前だけを敢えて記した。僕は、あいつが誰より一番嫌いだったのだ。
 もともと、僕の机の上にあった菊の花瓶、あれを学校へ持ってきたのはユウだった。お葬式ごっこを始めるきっかけをつくったのもユウだった。一人では何もできないくせに、いつも誰かの後ろに隠れて、影から僕の自尊心を汚しつづけた。僕は、誰よりユウのことが許せなかった。
『あいつも、俺と同じ目にあえばいいんだ』
 がきんちょは、つまらなそうに空中をくるんぐるん回っている。
『なあ、お前。面倒くさいから、とっとと成仏してくれよ。俺様はお前らなんかに興味はないんだよ』
 先に聞いてきたのはそっちじゃないか、と思わず言い返したくなるのをぐっと抑えた。
 がきんちょの霧のような体が日差しをすり抜けると、見下ろす教室にごく薄い影が揺らいだ。でも、人間たちはそれを、太陽の下を雲が翳ったくらいにしか思わない。
 がきんちょはあからさまに僕の目の前を横切ると、喉の奥まで見えそうな大あくびを、また一つしてみせた。

 

今週のお題「2020年の抱負」

平日まいにち、過去作UPするよ✒︎

 

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