かなしくなったら、魚の気持ち

生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて かなうなら素数のひとつに仲間入りしたくて ひとだからさきおとといのことを後悔します おやすみはにー♭ 【Yoga Alliance US Teacher Training 200 修了(First class)】

「朝行く月-05(1)」楢﨑古都

 

 二度寝のまどろみは、深く底までは落ちてゆかない。意識の片隅で甘いにおいをかいでいる。
 ぼんやりした頭の中で、今日つめる具について考えをめぐらしていた。焼き鮭にしようか、昆布にしようか。梅干はおとつい入れたばかりだから、ほかのものにしよう。そういえば、このあいだの塩昆布はなかなか好評だった。
 炊き上がりのアラームを目覚まし代わりに起き上がる。暖めておいた室内は、立ち昇った湯気の香りと相まって、ほのかにこもっている。カーテンを引くと、抜けた青空が朝日をつれて射し込んだ。
 炊飯器の蓋を開けると、いっせいに蒸気が立ち昇った。むせ返りそうになるくらいの湿った芳香が、顔面を包み込む。濡らしたしゃもじで釜の中を切るように混ぜ返した。混ぜて空気に触れさせることで、一粒一粒の照りが増し、食べたときの味も均一になるのだった。
 お茶碗にサランラップを敷き、白米を軽く一杯よそう。くぼませた中央におかかを包んだ。火傷しそうな熱さに手のひらが真っ赤に染まる。爪の血色もみるみるうちに鮮やかになった。
 握りすぎないよう、まとめるくらいの気持ちで三角を形づくる。ビニールにくるまれた正三角形を目指しているわけでもないが、以前はサランラップに蒸された海苔が、つぶれた米粒のかたまりにへばりついていた。野球ボールどころか、泥団子だった。
 わたしが昼食におにぎりを持参するようになったのは、米を研ぐ彼の姿に見とれてしまったからだ。
 整理整頓、炊事洗濯は完璧にこなせる一面があるにも関わらず、彼の生活サイクルは不規則そのものだった。当然、朝食は抜いて登校してくる。わたしがおにぎりを持っていくようになった途端、彼は校内ですれ違うと、否応なしに昼食を横取りしていくようになった。

 

今週のお題「卒業」

 

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「朝行く月/水に咲く花」

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