「朝行く月-03(2)」楢﨑古都
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— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年2月9日
第一印象は、他人まかせのぐうたらにしか見えなかった。
相変わらず授業には出てこないし、取ってもいない科目の代返まで頼まれる。それでも、わたしが彼との付き合いをやめずにいるのは、人は見かけによらない、なんて言葉があるからだろうか。
数日後、校内ですれ違ったとき、彼は下を向いてウォークマンを聞いていた。わたしはあいさつも交わされないまま素通りされ、とにかく人見知りするのだと聞かされるまでは、なんて無愛想でその場限りの人なのだろう、と腹を立てたほどだった。
だから、試験最終日に彼の方から話しかけてきたときには、虫がよすぎるではないかと気に障り、わざとぞんざいな態度をとった。
「立花さん、今日このあと時間ある」
「なんか用」
「ノート貸してもらったお礼でもしようかと」
「そんなのいいよ」
急いでいるふりをして、脇をすり抜けた。
「ちょっと待って、なんか怒ってる」
「別に」
引きとめられふり返ると、帰り支度を済ませた学生たちをよそに、彼一人が残され立たされている生徒みたいに頼りなく見えた。
それで、思わず声をかけてしまった。
「ご飯でもおごってくれるの」
こちらが先に折れた。向き直って、一度肩にかけたかばんを机に置く。
「それええな」
「ちょっと、なにも考えてなかったの」
眉間をしかめると、そんなことない、と並びのいい歯を見せた。笑ったところを、はじめて見た。
「うち来なよ」
知り合ってひと月にも満たない男の子の部屋へ、わたしが身構えもせずついていったわけではない。
「夕飯つくるからさ」
餌に釣られたのだった。
今週のお題「卒業」