かなしくなったら、魚の気持ち

生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて かなうなら素数のひとつに仲間入りしたくて ひとだからさきおとといのことを後悔します おやすみはにー♭ 【Yoga Alliance US Teacher Training 200 修了(First class)】

「朝行く月-03(1)」楢﨑古都

 

  彼の手料理を口にしたのは、大学二年の前期試験がすべて終了した日、夏の盛りはじめのことだった。
 児島順平は、授業という授業をサボっている人だった。友人から、どうしようもなく困っている奴がいるから助けてやってくれとノートの写しを頼まれ、出会った。
 寝癖が、つねに好き放題にはねた頭をしていた。大学から徒歩十数分圏内に部屋を借りているにも関わらず、授業へはまともに出てこない。午前中に姿を見かけることはまずなく、めずらしく午後からやって来たとしても、眠そうな顔は一向にさえない。
 引き合わされたときも、彼は縦横にしわの走った、明らかに寝起きだろうと思われるシャツ姿で現れた。
「佳世子ちゃん、悪いんだけどこいつに哲学と法学のノート貸してやって。できたら、去年の心理学と環境学もあると助かるらしいんだけど」
 友人が、決まり悪そうにうつむいている彼の背中を押しやる。
「うわ、眠そう」
 思わず口にしてしまってから、あわてて「ごめん」と言い添えた。そばで友人がたまらず吹きだした。本人からは「世話んなります」と頭を下げられてしまった。ほんと、ごめんなさい、とわたしは重ねてあやまった。
「謝ることないって、佳世子ちゃん。こいつが一年で取った単位、かろうじての二桁なんだから」
「嘘でしょ」
「やる気なさすぎでしょ」
「あほ、そんなことまで言うな」
 友人を小突く姿は、恐縮して及び腰になっていた。
「かろうじてって、いったい取ったの」
「十二だって。うちの学部は留年しない代わりに、四年で終われなかったら五年生になれるからねえ。卒業は俺らの一年後かもな」
「やめい」
 散々こけにさればがら、彼は哲学と法学のノートを1ページ目からひたすらコピー機にかけていった。

 

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「朝行く月/水に咲く花」

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