かなしくなったら、魚の気持ち

生まれ変わったら一頭のくじらになりたくて できれば水素原子くらいちいさくなりたくて かなうなら素数のひとつに仲間入りしたくて ひとだからさきおとといのことを後悔します おやすみはにー♭ 【Yoga Alliance US Teacher Training 200 修了(First class)】

「水に咲く花-03(2)」楢﨑古都

 

 二人一緒に吹き出してしまった。空を飛んでいくヘリコプターの音が、重なり遠のいていく。
 いち子ちゃんが欲しがってるのは、彼氏じゃないよ。
 別れ際、片桐くんに言われた言葉は図星だった。いまでもおなじなんだろう。わたしは都合よく、篠崎くんを利用しているにすぎない。会って、もう一度指摘されたくなかったのかもしれない。
「扇風機、こっちにも回してよ。この部屋暑すぎるよ」
 うちわを見つけて、篠崎くんの背中をつついた。去年の花火大会で配られていたやつだ。表には打ち上がった花火と会場周辺の景色が描かれていて、裏面には主催した新聞社の名前が印刷されていた。
 風の強さを「中」にして、首を「回す」に戻すと、篠崎くんはこちらを向いた。
「それ、去年いち子ちゃんに呼びだされて行ったやつ」
「ね、すごいきれいだった」
 会場に上がる花火を、海沿いの公園から見た。頭の真上に上がるので、離れたところから見るのとは迫力が違った。
「花火、ここから見える?」
「見えるよ」
「今年はここから見よう」
「人混みが嫌なんでしょ」
「だって酔うんだもん、人多すぎて」
「ここからじゃ、手のひらサイズだよ」
「篠崎くんは、また海沿いで見たい?」
「浴衣が見たい」
 真顔を崩さず言われて、思わず笑ってしまった。
「ねえ、じゃあうちの商店街でやってる縁日おいでよ。八のつく日にやってるんだけど、八月二十八日は毎年その夏最後の縁日だから、結構盛り上がるんだ。女の子たち、みんな浴衣で来るよ」
「それはいいね」
「いいでしょう」
 駅前商店街の縁日には、家族で昔よく出かけた。
 昼間の汗をシャワーを流して、母さんとわたしは揃って祖母が縫ってくれた浴衣を羽織った。髪をお団子に結ってもらい、古いかんざしを差してもらうのだった。
 灯りから灯りへと露店をわたり歩き、金魚を掬ったり、りんご飴をかじった。縁日の夜は、いつもは物静かな祖母の目が子どもみたいに輝いていた。
「縁日が終わるとね、夏も終わっちゃうんだー」
 うちわで首筋を仰ぎながら、額の汗をぬぐった。
「言ってることとやってることがあってないよ」
「だって暑いんだもん」
 今年の夏は、まだ半分以上残っている。 

 

お題「海派? 山派?」

 

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