04 ◇ 非日常的な屋上の俯瞰 ◇(この素晴らしい世界)楢﨑古都
04 ◇ 非日常的な屋上の俯瞰 ◇|楢﨑古都 @kujiranoutauuta #note #熟成下書き https://t.co/MnLPVqzi1d
— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2019年12月26日
学校は郊外の丘陵に建っていて、屋上からの景色もなかなかのものだった。
その瞬間のことは、いまでもよく覚えている。
体が風にさらわれるのを、僕は厭わなかった。片足を踏みだし、ほんの少し前方に重心を移す。あとは重力に任せればよかった。意識は、地面にたどり着く前に失った。
『ふ、ざけんなよっ』
僕は咄嗟に叫んでいた。と同時に、落ちたはずのユウが、まだ屋上のへりに立ち尽くしていた。
時間が、止まっていた。
『特別だからな』
がきんちょは中指を立て、舌打ちする。どうやら、これもがきんちょの仕業らしい。僕ら二人と、ユウ以外の人間たちの動きが、完全に静止していた。
「スグル?」
僕に気づいたユウの表情が、みるみる強張る。
「スグル……ごめん、ごめんなさい。……俺が、俺が悪かったんだ」
しゃくりあげながら、ユウはいきなり僕の腕にすがりついてきた。
『は、離れろよっ』
僕には、ユウの体温も、腕の力も、一切感じ取ることはできなかった。
『お前がいなくなれば、あいつらの罪悪感も少しはまともに働くようになるんじゃねえの』
言って、僕は思いきりユウの顔を睨みつけた。彼は僕の正視に堪えられず、すぐに目をそらした。でも、その先には動きを止めた同級生たちの歪んだ顔が並んでいる。
『僕は! 僕はいまでも、お前のことが大っ嫌いなんだよ! だから、死んでもこっち側へなんか来させない。お前に、楽なんかさせてやらない!』
がきんちょが、鼻先で僕を嘲笑った。
僕は、自分の発言が生きている者たちからしたら矛盾しているかもしれないことに気づきながらも、文句を止められなかった。
「スグル、ごめん……、本当にごめん……」
泣きすがるユウの姿を、僕はもうこれ以上見ていたくなかった。だから、その肩を突き飛ばそうとした。眼下へとじゃない、屋上へと押し戻そうとして。
でも、それは仕草にしかならなかった。僕の腕は彼をすり抜けて、すがりつかれていた腕も空を切った。文字通り、肩透かしを食らわされた。しかしその直後、ユウの体はふわりと宙に乗りだし、重力を捉えてしまっていた。
僕は、ユウを止められなかった。
『時間切れだ』
ふり返った僕に、ガキんちょはそっぽを向いて、素知らぬ態度でシラを切る。
『そんな、勝手な……!』
スローモーションで、ユウのからだが宙に浮遊する僕の胸をすり抜けていく。
「……ッあ」
ユウの息の漏れる音が、すぐそばで聞こえた。あわてふためく生徒たちの群れが、続けて僕らの体を通り抜け、地上を見下ろした。