腕時計をなくした
むかしからそうなんだ。
しんどいとき、大事大事にしているものから、まるでわたしの身代わりみたいに傷つき、姿を消してしまう。
今朝だって、とにかくひどい状態で、ほんとうは会社なんて行きたくなくて、でもきのうの方がもっとひどくてお休みしてしまったから今日はがんばらなくちゃいけなくて、出がけにもう荷解きしたなかに腕時計すぐある! ってことを思い出して、かちゃりと留め具をはめ、真鍮の指輪とグリーンサファイアのブレスレットもフルセット装着したのだった。
会社に着いたら、腕時計がなくなっていた。
あれ、おかしいな、つけてこなかったんだっけ、慌ててたし。
でも、帰宅して確認してみたら、やっぱりなかった。
手袋だってしていたし、留め具が外れてしまったとしたって、あの輪っかが腕からすり抜けてしまうことなんてまさかありうるはずがない。
それでもきっと、なにかしらの拍子にわたしのもとから離れていってしまった。
もう大人になってしまったから、見つかるか見つからないか、わからない。
ただ、いますぐには見つからないということだけ。
部屋のなかで落ちていて欲しいけれど、それはないのかなあ……
わたしの憑きものごと、もっていってくれたのかもしれない。
でも、腕時計さん、あなたの不在はわたしにとって相当の痛手だよ、、
とまってしまっていても構わないから、出てきてください……