「水に咲く花-08(2)」楢﨑古都
水に咲く花-08(2)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/DXp5Amu3mo
— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月23日
「ここでいいんじゃない」
休憩所はすでに人で埋まっていて、わたしたちは腰の高さで植え込みが造られているレンガ塀に腰掛けた。篠崎くんはとっくにみかん飴を食べ終え、広島焼きを袋から取りだしている。焼きそばとお好み焼きが合体したようなその食べ物は、プラスチックのパックからはみ出さんばかりのボリュームで、割り箸を使って半分に切ると、中から半熟卵があらわれた。
「広島焼きっていいとこ取りだな」
篠崎くんの発言に、思わずわたしは笑ってしまう。男の子の食べっぷりほど、見ていて壮観なものはない。あんず飴を食べ終わって、広島焼きを食べる様子を眺めていたら、食べる? とパックを持ち上げて見せた。
「ちょっとちょうだい」
篠崎くんの割り箸を借りて、口元に寄せてくれたパックから直接、二口三口と食べた。
「ありがとう」
「もういいの」
うなづき、割り箸を返して、食べなさい、と促す。あっとゆうまに、篠崎くんは残りを平らげてしまった。
「ほんと露店の数多いね」
「なんでもあるよ」
わたしたちは再び歩きだした。浴衣の分、いつもより歩幅が狭くなってしまう。
「いち子ちゃん、なで肩だから浴衣が似合うよね」
そう言って、さりげなくわたしの手を取った。
金魚すくいに輪投げ、射的に百円くじ。夜の街に子どもたちが群がっている。視線を転じれば、いろいろなアニメキャラクターの面が何十も並んでいる。わたあめはみるみるうちに大きな繭になり、たこ焼き屋の前には並べられた具材の気前良さに行列ができていた。
「やっぱ二人でこうして歩いていたら、そうゆう風に見られるのかな」
腕を組んで歩いてくるカップルを見つけて、篠崎くんが言った。曖昧な相槌だけうって、他のものに気を取られているふりをした。浴衣の彼女は、彼氏にすっかり寄りかかっていた。
水中花の露店を見つけて、わたしは篠崎くんの手を引き、人の波を横切る。しゃがみこんで、細かい表情の変化を気取られないようにした。
「ねえ、篠崎くん」
「ん?」
ベニヤ板の上に並べられた色とりどりの水中花。両手で手に取る風をよそおって、わたしはつないでいた手を離した。
「誰か好きな子ができたら、この関係は解消していいんだよ」
充分、平静を保って伝えられたはずだ。
「急にどうしたの」
「こないだ、片桐くんが喫茶店に来たんだ」
「片桐が? ほんとに」
「篠崎くんのこと、好きな女の子がいるって。わたしなんかと変な付き合い方をしているせいで、篠崎くんがきちんと他の女の子たちと向き合えないって、怒られちゃった」
今週のお題「大切な人へ」