「水に咲く花-05(2)」楢﨑古都
水に咲く花-05(2)|楢﨑古都@kujiranoutauuta #note #熟成下書きhttps://t.co/yrE3tz8RZO
— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月19日
「あ、花火はじまったみたい」
音を聞きつけて、わたしはここぞと席を立った。狭いベランダに二人で並び、明るい都会の空を見上げる。篠崎くんが言っていた通り、花火はずっと向こうで手のひらよりも小さく咲いた。それから、十秒くらい遅れて音がとどく。
「遠いな」
「綺麗だよ」
手すりに寄りかかっていると、篠崎くんが一度部屋へ入って、缶チューハイを片手に戻ってきた、
「ありがとう」
わざわざプルトップまで外して渡してくれる。指と指が触れあって、少し照れた。つられて篠崎くんも笑うだろうと思ったのに、笑わなかった。
赤や青の花火が次々に上がる。空が照らされ、後には白煙が残る。次の花火が反射して、下方をただよう煙は淡い黄色や緑色に染まった。
「来年もここから見る?」
不意に、篠崎くんが言った。
「どうかな」
わたしたちは花火を見ていた。缶チューハイが汗をかいて、しずくが指先を濡らした。
「見ないの」
「さすがに、1年はつづけられないかなって」
「恋愛ごっこだから」
篠崎くんは、正面を向いたままふり返らなかった。
「篠崎くん、怒った?」
「いじめてんの」
声とことばは裏腹だ。
彼岸花のような花火が、つづけさまに打ち上がる。隣の男の子が、缶チューハイを飲み干す音が聞こえるような気がした。ほかにも近くで花火を見ている人たちがいるのだろう、途切れ途切れに歓声が夜風に混じった。
「来年もここで見せて」
わざと、そう言った。
「俺に彼女ができてても?」
「うん、譲らない」
柳花火が上がる。音が同時にはしないので、しまらない。誰かの声だけ、耳にとどく。
「考えとく」
さっき連弾で上がった花火の軽快な破裂音に続けて、ようやく濁音のとれた一発音がした。