「水に咲く花-03(1)」楢﨑古都
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— ✿すいすい✿ (@kujiranoutauuta) 2020年1月14日
うやむやにしたつもりの、片桐くんと会うという話が、ひょんなことから一緒に映画を見にいく話にまで発展していた。
少し前に、外国の映画祭で主役の男の子が最優秀賞をとった邦画があり、わたしは篠崎くんを誘っていた。実際、飲むか食べるかしかしていなかったので、デートっぽいことをしようよ、と決まったのだ。それなのに、篠崎くんは片桐くんに出くわして、同じ映画に誘われてきたのだ。
「基本的にいち子ちゃんと片桐は、好みも性格もよく似てるんだよね」
篠崎くんはたまに、こういう何のフォローにもならないことを口にする。
「からかわないでよ」
出してもらった麦茶のコップはすっかり汗をかいて、テーブルに輪っかをつくっていた。一人暮らしの篠崎くんの部屋には冷房がない。
癪に障って意地をはった。
「片桐くんも来るなら、わたしは一人で見にいくね」
わがままだと怒るなら怒ればいいし、呆れるなら呆れればいい、とそっぽを向いた。
「それなら俺は、いち子ちゃんと行くよ」
「いいよ、別に」
「だって俺、つきあうって言ったでしょ」
「これは恋愛じゃないんだけど」
「野郎と観に行くよりずっとまし」
扇風機の首を止めて、篠崎くんは風を独り占めにする。
「わたしは一応、女の子として認められてるんだ」
「そう、一応ねー」
声が風にあおられて飛んでくる。篠崎くんは扇風機に顔を近づけ、あー、とか、うー、とか言って遊びだした。
「変な声」
ツボにはまってしまったらしく、篠崎くんは扇風機に向かって意味のない会話をはじめる。
ワレワレハウチュウジンダ。
ボクハシニマッシェン。
スピードワゴンッ。
キカイダー。
「わたし、お兄ちゃんが欲しかったのかなあ」
「なに、突然」
「お兄ちゃん、いち子は恋なんてしません。お兄ちゃんさえいてくれれば、それで充分です」
できるだけ気だるく、ソファベッドに頭をもたせかけて言った。
真夏の炎天下を見やる。今日も三十度を超える真夏日になる。
「なに言ってんの。襲うよ、いち子ちゃん」
「やれるもんならやってみろ」